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京都地方裁判所 昭和61年(行ウ)3号 判決 1992年7月27日

京都市中京区蛸薬師通麩屋町東入ル蛸屋町一五三番地

原告

和田賢司

右訴訟代理人弁護士

高田良爾

京都市中京区柳馬場通二条下ル

被告

中京税務署長 西田邦輔

右指定代理人

源孝治

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求める裁判

一  原告(請求の趣旨)

1  被告が、原告に対し昭和五七年一二月二四日付けでそれぞれした、原告の昭和五四年分の所得税の総所得金額を六四八万五、七六六円、同五五年分の所得税の総所得金額を二、〇二二万八、四〇七円、同五六年分の所得税の総所得金額を一、〇八二万四、七二〇円とする各更正処分及び右各年分の過少申告加算税の賦課決定処分(昭和五五年分及び同五六年分については、異議決定により一部取消された後のものである。以下、以上の各処分を本件各処分という)のうち、総所得金額につき昭和五四年分は二五二万一、〇〇〇円、同五五年分は二六四万三、五三〇円、同五六年分は四七〇万二、二〇〇円を超える部分をいずれも取消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

との判決。

二  被告

主文同旨の判決。

第二当事者の主張

一  原告(請求原因)

1  原告は、宝石、貴金属製品及び貴金属地金の卸売業を営む者であるが、その昭和五四年分ないし同五六年分の所得税の確定申告、更正、異議申立、異議決定、審査請求、裁決の経緯は別表甲1のとおりである。

2  本件各処分は、以下の理由により違法である。

(一) 被告は、原告に対する税務調査において理由の開示を行なわず、本件各処分を行なった。

(二) 本件各処分のうち、原告の各申告総所得金額を超える部分は、原告の所得を過大に認定したものである。

よって、原告は被告に対し、本件各処分のうち別表甲1の各年分の確定申告欄記載の額を超える部分の取消を求める。

二  被告(認否、主張)

1  請求原因に対する認否

(一) 請求原因1の各事実を認める。

(二) 同2(一)、(二)をいずれも争う。

2  主張

(一) 調査理由の開示について

調査理由の個別具体的な告知は、質問検査を行なうための法律上の要件ではない。したがって、本件各処分は、税務調査の調査理由の具体的告知を欠くとしても、違法とならない。

(二) 推計課税の必要性

被告は、本件係争各年分についての原告の申告にかかる所得金額が適正なものかどうかを確認するため、所属職員を原告の所得税調査に当らせた。

右職員は、昭和五六年九月一六日から同五七年六月二三日までの間に少なくとも一六回にわたって原告方に臨場し、その際、原告に対して、本件係争各年分の事業所得の金額の算定の基礎となるべき帳簿書類等を提示するよう求めた。しかしながら、原告はその間、第三者の立会いを強く要求して、譲らなかった。また、昭和五六年一〇月一六日には、被告の所属職員が銀行調査を行なっている場に第三者と共に押しかけてこれを妨害し、「勝手に調べて更正したらええ。」「帳簿は見せられない。」「令状とって調査したらええ。」「あんたらはよう更正したらよい。」「こちらは弁護士も用意している。」等と申立てるなどして、調査に全く協力しなかった。

以上の経緯により、被告はやむを得ず、推計の方法により算出した金額に基づき本件各処分を行なったのであり、推計の必要性がある。

(三) 事業所得金額

(1) 推計の合理性

被告が原告の本件係争各年分の事業所得金額の算定に用いた同業者の選定経緯及びその推計は、次のとおり合理的である。

イ 大阪国税局長は、原告の納税地を所轄する被告、並びに、京都市、大阪市及び神戸市に所在地を有する三〇の税務署長に対し、本件係争各年分を通じて次の<1>ないし<7>の各条件に該当するすべての者を抽出するように通達指示した。

被告らが、右抽出基準にしたがい抽出した同業者は、宝石、貴金属卸売業が一六名、金地金販売業が一名である。その売上金額、売上原価、外注費、売上原価率、一般経費、一般経費率は、宝石貴金属製品の卸売業の同業者については別表乙6の、金地金販売業の同業者については別表乙7のとおりである。

<1> 青色申告書により所得税の確定申告書を提出していること。

<2> 金地金販売業を営んでいること、又は、物品税法第三五条の二第一項に規定する販売業者証明書の交付を受けて宝石貴金属製品の卸売業を営んでいること。

<3> <2>以外の業種目を兼業していないこと。

<4> 年間を通じて事業を継続して営んでいること。

<5> 事業所が自署管内にあること。

<6> 売上原価が、金地金販売業にあっては年間二、〇〇〇万円以上二一億円未満、宝石貴金属製品卸売業にあっては年間一、三〇〇万円以上一億六、〇〇〇万円未満であること。

<7> 対象年分の所得税について、不服申立又は訴訟が係属中でないこと。

ロ 右抽出基準によって抽出された同業者は、原告と、業種、業態、規模等の類似性を有する。しかも、その申告の正確性を有する青色申告者であるから、基礎数値は正確である。

そして、同業者の抽出は、大阪国税局長の発した通達に基づき、右抽出基準に該当するものの全てを抽出したものであるから、その抽出にあたって恣意の介在する余地がない。

したがって、被告が、右により選定された同業者の売上原価率及び一般経費率を用いて、原告の本件係争各年分の事業所得金額を推計したことは、合理的である。

(2) 事業所得金額

イ 売上金額

(イ) 宝石貴金属製品の卸売に係る売上金額(別表乙1の1ないし3の各「売上金額/宝石卸売」欄)

本件係争各年分の原告の右売上金額は、後記ロ(イ)の各売上原価を、別表乙6の各年分の同業者の売上原価率(売上に占める、売上原価及び外注費の割合)の平均値で除した金額である。

(ロ) 金地金販売に係る売上金額(別表乙1の1ないし3の各「売上金額/金地金」欄)

本件係争各年分の原告の右売上金額は、次の<1>、<2>の合計額である。

<1> 株式会社永井貴金属工業所(以下「永井貴金属」という)及び石福金属興業株式会社(以下「石福金属」という)以外に対する売上金額(別表乙1の1、2の各「売上金額/金地金」欄の<1>、別表乙1の3の「売上金額/金地金」欄)

本件係争各年分の原告の右売上金額は、後記ロ(ロ)<1>ないし<3>の各売上原価を、別表乙7の各年分の同業者の売上原価率で除した金額である。

<2> 永井貴金属及び石福金属に対する売上金額(別表乙1の1、2の各「売上金額/金地金」欄の<2>)

原告の右売上金額の明細は、別表乙5の記載のとおりである。

(ハ) 松村茂の依頼に係る手形割引による割引料収入(別表乙1の1ないし3の各「売上金額/手形割引」欄)

<1> 昭和五四年分

昭和五四年分の原告の右割引料収入は、次のA、Bの合計額である。

A 金地金の仕入れに仮装した手形割引による割引料収入(別表乙1の1の「売上金額/手形割引」欄の<1>)

別表乙10の1ないし3記載に係る取引は、原告が、松村からの手形割引の依頼に応じ、手形の額面金額から受取割引料を差し引いた残額を松村に送金した取引であり、当該手形割引による収入金額は、右別表の各<4>「受取割引料」欄記載のとおりである。

B 右A以外の、松村が原告に割引を依頼した手形に係る割引料収入(別表乙1の1の「売上金額/手形割引」欄の<2>)

原告が昭和五四年中に取引銀行で割引いた手形の明細は、別表乙8の1及び別表乙9の1記載のとおりであるが、そのうち、同表乙9の1中の同年一二月二八日に池田銀行京都支店で割引いた長田二郎振出の手形は、同年中に原告が松村から割引を依頼された手形である。右各手形の割引料収入は、別表乙13の1(1)記載のとおり、手形の額面金額に、収入割引料率(前記Aの手形割引料収入の額面金額に対する割合をいう。別表乙10の3注1)を乗じて算出した。

<2> 昭和五五年分

原告が同年中に取引銀行で割引いた手形の明細は、別表乙8の2及び別表乙9の2記載のとおりであるが、右各手形のうち、別表乙11に記載した手形は、松村が原告に割引を依頼したものである。右各手形の割引料収入は、手形額面合計額に、収入割引料率を乗じたものである。

<3> 昭和五六年分

原告が同年中に取引銀行で割引いた手形の明細は、別表乙8の2及び別表乙9の2記載のとおりであるが、右各手形のうち、別表乙12に記載した手形は、松村が原告に割引を依頼したものである。右各手形の割引料収入は、手形額面合計額に、収入割引料率を乗じたものである。

(ニ) 原告の本件係争各年分の総売上金額は、前示(イ)、(ロ)及び(ハ)の合計額であり、別表乙1の1ないし3の各「売上金額/合計」欄記載のとおりとなる。

ロ 売上原価

(イ) 宝石貴金属製品の卸売に係る売上原価(別表乙1のないし3の各「売上原価/宝石卸売」欄)

右売上原価は、原告の、本件係争各年分の宝石貴金属製品の仕入金額であり、その明細は、別表乙2記載のとおりである。

(ロ) 金地金販売にかかる売上原価

<1> 昭和五四年分(別表乙1の1の「売上原価/金地金」欄)

右売上原価は、次のA、Bの合計額である。

A 永井貴金属からの仕入金額(別表乙1の1の「売上原価/金地金」欄の<1>)

右仕入金額の明細は、別表乙4のとおり。

B 永井貴金属及び石福金属に対する金地金の売上げに対応する売上原価(別表乙1の1の「売上原価/金地金」欄の<2>)

右売上原価は、前記イ(ロ)<2>の売上金額に、別表乙7の昭和五四年分の同業者の売上原価率を乗じた金額である。

<2> 昭和五五年分(別表乙1の2の「売上原価/金地金」欄)

右売上原価は、次のA、Bの合計額である。

A 永井貴金属及び石福金属からの仕入金額(別表乙1の2の「売上原価/金地金」欄の<1>)

右仕入金額の明細は、別表乙4のとおり。

B 永井貴金属に対する金地金の売上に対応する売上原価(別表乙1の2の「売上原価/金地金」欄の<2>)

右売上原価は、前記イ(ロ)<2>の売上金額に、別表乙7の昭和五五年分の同業者の売上原価率を乗じた金額である。

<3> 昭和五六年分(別表乙1の3の「売上原価/金地金」欄)

右売上原価の明細は、別表乙4のとおり。

(ハ) 原告の本件係争各年分の売上原価は、前示(イ)及び(ロ)の合計額であり、別表乙1の1ないし3の各「売上原価/合計」欄記載のとおりとなる。

ハ 一般経費

(イ) 宝石貴金属製品の卸売に係る一般経費(別表乙1の1ないし3の各「一般経費/宝石卸売」欄)

本件係争各年分の原告の右一般経費は、前記イ(イ)の売上金額に、別表乙6の各年分の同業者の一般経費率の平均値を乗じた金額である。

(ロ) 金地金販売に係る一般経費(別表乙1の1ないし3の各「一般経費/金地金」欄)

本件係争各年分の原告の右一般経費は、前記イ(ロ)の売上金額に、別表乙7の各年分の同業者の一般経費率を乗じた金額である。

(ハ) 松村からの手形割引料収入に係る一般経費

本件係争各年分の原告の右一般経費は、別表乙1の1ないし3の各「一般経費/手形割引」欄記載のとおりである。

ニ 特別経費(支払割引料)

本件係争各年分の原告の特別経費は、別表乙1の1ないし3の各「特別経費/合計」欄記載のとおりであり、その明細は、昭和五四年分については別表乙10の1ないし3の<7>欄、同五五及び五六年分についてはそれぞれ別表乙11、12の各<4>欄記載のとおりである。

ホ 事業専従者控除額

本件係争各年分の原告の事業専従者控除額は、別表乙1の1ないし3の各「事業専従者控除」欄記載のとおりである。

ヘ 以上によれば、本件係争各年分の原告の事業所得の金額は、イの数額から、ロ、ハ、ニ及びホの各数額を控除したものであり、別表乙1の1ないし3の各「事業所得の金額」欄記載のとおりとなる。

(四) 不動産所得の金額について

原告の本件係争各年分の不動産所得の金額は、別表乙1の1ないし3の各「不動産所得の金額」欄記載のとおりである。

(五) 総所得金額について

原告の本件係争各年分の総所得金額は、事業所得の金額と不動産所得の金額とを合計して得られた金額であり、別表乙1の1ないし3の各「総所得金額」欄記載のとおりとなる。

(六) 所得税額等について

原告の本件係争各年分の所得税額は、総所得金額から別表乙14記載の所得控除額を控除の上、別表乙1の1ないし3の各「所得税額」欄記載のとおり算出した。

また、原告の本件係争各年分の過少申告加算税額は、所得金額のうち隠ぺい又は仮装事由部分の額(その明細は、別表乙15記載のとおり)に基づき、別表乙16の1ないし3のとおり算出した。

(七) よって、本件各処分は、右所得税額ないし過少申告加算税額の範囲内でなされているから、いずれも適法である。

三  原告(認否、反論)

1  認否

(一) 被告の主張二2(一)を争う。

(二) 同二2(二)の各事実は、認否なし。

(三)(1) 同二2(三)(1)を争う。

(2) 同二2(三)(2)のうち、ロ(ロ)<1>A、<2>A、ハ(ハ)、ニ、ホの各事実を認め、その余の事実を否認する。

(四) 同二2(四)の事実を認め、同(五)(六)の各事実をいずれも否認する。

(五) 同二2(七)を争う。

2  反論(実額の主張)

原告の本件係争各年分の仕入れの実額は、別表甲2の記載のとおりである。

四  被告(認否)

原告の反論三の2各事実のうち、昭和五四年分の株式会社美和喜、有限会社谷口商店、松村茂、五十鈴工芸、津田製作所からの各仕入金額、昭和五五年分の株式会社赤石宝石、有限会社谷口商店、杉本商店株式会社、松村茂、西川貞二、荒金義博、梅田栄作、津田製作所からの各仕入金額、昭和五六年分の株式会社赤坂宝石、有限会社谷口商店、松村茂、津田製作所、琴城宝飾有限会社からの各仕入金額を否認し、その余の原告主張各仕入金額を認める。

第三証拠

証拠に関する事項は、本件記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  原告の請求原因一1の各事実は、当事者間に争いがない。

二  原告の請求原因一2(一)及び被告の主張二2(一)について検討する。

税務職員による質問検査は、その範囲、程度、時期、場所等実定法上特段の定めのない実施の細目については、質問検査の必要があり、かつ、右必要と相手方の私的利益との衡量において社会通念上相当な程度にとどまる限り、権限のある税務職員の合理的な選択に委ねられている。また、調査理由及び調査の必要性の個別的、具体的な告知は、質問検査を行なううえでの法律上一律の要件とされているものではなく、調査を担当する税務職員の裁量によると解すべきである(最決昭和四八年七月一〇日刑集二七巻七号一二一一頁、最判昭和五八年七月一四日訟務月報三〇巻一号一五一頁参照)。

そして、本件において、税務調査の際に調査理由を開示しなかったことが調査担当職員の裁量権の濫用であるとか、本件調査に、これがその必要がないのに、あるいは社会通念上相当でない方法で行なわれた違法があるとすべき事情は、本件全証拠によっても認められないから、原告の請求原因一2(一)の主張は理由がない。

三  推計の必要性について

被告の主張二2(二)の各事実は、原告において明らかに争わないから自白したものとみなす。これによれば、原告の本件係争各年分の所得税について推計課税をする必要性があったことが認められ、他にこれを動かすに足る証拠がない。

四  推計の合理性について

1  証人西岡達雄の証言、これにより成立が認められる乙第二ないし乙第三の三一の三及び弁論の全趣旨を総合すれば、被告の主張二(三)(1)イのとおりの、同業者の選定基準、選定経緯に関する事実が認められ、他にこの認定を覆すに足る証拠がない。

2  右認定事実によれば、右各同業者の選定基準は、業種の同一性、立地条件の類似性、事実規模の近似性等の点で同業者の類似性を判別する要件としては合理的なものである。その抽出作業について被告あるいは大阪国税局長の恣意の介在する余地は認められず、かつ、右の調査の結果の数値は青色申告に基づいたものでその申告が確定しており信頼性が高い。抽出した同業者数は、宝石貴金属卸売業に係る事業所得金額算出については一六名であることから、各同業者の個別性を包括して平均化するに足るものということができる。したがって、原告の本件係争各年分の所得金額の推計を行なうにあたり、右各同業者の平均売上原価率及び平均一般経費率を用いることは、特段の事情がない限り、合理性があるものというべきである。また、金地金販売業に係る事業所得金額算出については、一名であるが、これは右販売業が僅少業種であり、前認定のとおり原告との類似性を有する同業者と考えられるのであり、右一名のみの数値に基づく推計も、推計課税の性質に照らし、特段の事情がない限り、合理的なものというべきである。

3  原告は、本人尋問において、宝石貴金属製品卸売業につき、原告は貴金属、宝飾品及び地金を加工して卸していたが、他の同業者ではこのような加工をしている者は少なく、専ら転売のみ行なっているところが多い旨陳述し、同業者とは業態の類似性がない旨主張する。しかし、右陳述は、これを裏付ける的確な証拠がなく、遽かに採用できない。また、そもそも、全営業に占める加工の割合の如何が、本件推計を不合理にさせるものであることを示す的確な証拠がない。

この他、右推計の合理性を動かす特段の事業は、その主張も立証もない。

したがって、前示のとおり本件推計には合理性がある。

五  事業所得金額の計算

1  売上金額

(一)  宝石貴金属製品の卸売に係る売上金額

後記2(一)の本件係争各年分の売上原価を、別表乙6の同業者の売上原価率の平均値で除して得られる原告の宝石貴金属製品の卸売に係る売上原価は、被告の主張二2(三)(2)イ(イ)にいう別表乙1の1ないし3の各「売上金額/宝石卸売」欄記載の金額と同額である。

(二)  金地金販売に係る売上金額

(1) 永井貴金属及び石福金属以外に対する売上金額

後記2(二)(1)の本件係争各年分の永井貴金属及び石福金属からの仕入金額を、別表乙7の同業者の売上原価率で除して得られる、原告の、永井貴金属及び石福金属以外に対する売上金額は、被告の主張二2(三)(2)イ(ロ)にいう別表乙1の1ないし3の各「売上金額/金地金」欄(別表乙1の1及び2にあっては、右欄の<1>)の金額と同額である。

(2) 永井貴金属及び石福金属に対する売上金額

官公署作成部分につき成立に争いがなく、証人西岡の証言及び弁論の全趣旨によりその余りの部分の成立が認められる乙第四、第五号証によれば、原告の、昭和五四年分及び同五五年分の永井貴金属及び石福金属に対する売上金額は、被告の主張二2(三)(2)イ(ロ)<2>にいう別表乙1の1、2の各「売上金額/金地金」欄の<2>の金額と同額であると認められる。

(3) 以上によれば、本件係争各年分の原告の金地金販売に係る売上金額は、別表乙1の1ないし3の各「売上金額/金地金」欄記載のとおりとなる。

(三)  松村の依頼に係る手形割引による割引料収入

(1) 昭和五四年分

(イ) 金地金仕入れに仮装した手形割引による割引料収入

成立につき争いがない乙第一号証(三三丁一六行目ないし一八行目)、弁論の全趣旨により成立が認められる乙第三六号証の三、五、七、九、証人西岡の証言、弁論の全趣旨によれば、被告の主張二2(三)(2)イ(ハ)<1>Aにいう別表乙10の1ないし3記載の各取引は、原告が金地金の仕入れによる手形決済であるとしているが、商慣習上、金地金の仕入れに手形決済をする場合はなく、原告が松村からの依頼に応じ、手形の額面金額から受取割引料を差し引いた残額を松村に送金した取引と認められる。そして、弁論の全趣旨により成立が認められる乙第三六号証の一の一ないし同号証の一三、証人西岡の証言によれば、右各取引に係る収入金額は、合計七八〇万〇、五五二円であると認められる。

(ロ) (イ)以外の、松村が原告に割引を依頼した手形に係る割引料収入

証人西岡の証言、弁論の全趣旨によれば、別表乙9の1記載の手形のうち昭和五四年一二月二八日に割引いた長田二郎振出の手形は、同年中に原告が松村から割引を依頼された手形であると認められる。

右手形の額面金額二〇〇万円に、(イ)の各手形の受取割引料合計額を手形額面合計額で除した数値(別表乙10の3の注1参照、以下、収入割引料率という)を乗じて得られる、右手形に係る割引料収入は、一八万五、二〇〇円である。

(2) 昭和五五年分

証人西岡の証言により成立の真正が認められる乙第一二、第一三号証、証人西岡の証言、弁論の全趣旨によれば、被告の主張二2(三)(2)イ(ハ)<2>にいう別表乙11記載の各手形は、前認定(1)(イ)の取引に係る各手形と、振出人が同じであり、右別表記載の各手形は、前認定(1)と同じ理由により、松村が原告に割引を依頼したものと認められる。

右各手形に係る割引料収入(右各手形の額面合計額に収入割引料率を乗じたもの)は、二六九万六、六七八円である。

(3) 昭和五六年分

乙第一二、第一三号証、証人西岡の証言、弁論の全趣旨によれば、被告の主張二2(三)(2)イ(ハ)<3>にいう別表乙12記載の各手形のうち、No.1ないし20の各手形は、前認定(1)(イ)の取引に係る各手形と、振出人が同じであり、右No.1ないし20の各手形は、前認定(1)と同じ理由により、松村が原告に割引を依頼したものと認められる。

また、乙第一、第一三号証及び弁論の全趣旨によれば、右別表記載No.21、22の各手形は、松村が原告に割引を依頼したものと認められる。

右各手形に係る割引料収入(右各手形の額面合計額に収入割引料率を乗じたもの)は、二二七万九、二三一円である。

(四)  以上によれば、本件係争各年分の原告の売上金額は、別表乙1の1ないし3の各「売上金額/合計」欄記載のとおりとなる。

2  売上原価

(一)  宝石貴金属製品の卸売に係る売上原価

(1) 乙第六号証の一ないし第一〇号証の四、第一四号証の一ないし第二四号証の二、証人西岡達雄の証言、弁論の全趣旨によれば、原告の本件係争各年分の宝石貴金属製品の卸売に係る売上原価は、被告の主張二2(三)(2)ロ(イ)にいう別表乙1の1ないし3の各「売上原価/宝石卸売」欄記載の額と同額であることが認められる。

(2) なお、原告は、本件係争各年分の松村茂からの宝石貴金属製品の仕入金額につき、昭和五四年分は一、六一三万四、三〇〇円、同五五年分は三、六五二万一、二六一円、同五六年分は五三七万四、二八〇円と主張するので、この点につき検討する。

(イ) 乙第二三号証によれば、うち六〇万九、〇〇〇円は、昭和五三年分の仕入れであると認められ、他方、乙第二四号証の一によれば、八三八万一、一七一円は、昭和五五年分ではなく同五四年分の仕入であると認められるので、昭和五四年分の松村からの宝石貴金属製品の仕入は、被告主張のとおり二、三九〇万六、四七一円であると認められる。

(ロ) 乙第七号証の一ないし第一〇号証の四によれば、原告は、審査請求段階において、昭和五五年には、松村から宝石貴金属製品代金合計三、五五二万一、二六一円及び金地金代金合計六、八九九万七、四〇〇円を、また、昭和五六年には、松村から、宝石貴金属製品代金合計五三七万四、二八〇円及び金地金代金合計四一万〇、五二〇円を、それぞれ仕入れた旨主張し、右各年分の金地金仕入れの決済は手形により行なったと主張していたことが認められる。

ところが、乙第三七号証の一ないし二五に記載された宝石貴金属製品の仕入金額は、原告の右審査請求時の主張額を大きく上回っている。また、証人西岡の証言によれば、当時、松村は金地金を取り扱っていなかったこと、金地金の取引においては、商慣習上手形決済はありえないこと、前記乙第三七号証に記載された宝石貴金属製品の仕入の中に原告が審査請求段階では金地金の仕入れと主張したものが含まれていることが認められる。以上の各事実及び弁論の全趣旨を総合すれば、原告が審査請求段階で金地金の仕入れに係るとした前記各金額は、いずれも宝石貴金属製品の仕入れに係るものと認められる。これと、前記(イ)のとおり八三八万一、一七一円は昭和五五年分の仕入れでないことを併せて考えると、松村からの宝石貴金属製品の仕入れは、被告主張のとおり、昭和五五年分が九、六一三万七、四九〇円、同五六年分が一、一七八万四、八〇〇円であると認められる。

(二)  金地金販売に係る売上原価

(1) 永井貴金属及び石福金属からの仕入金額

本件係争各年分の原告の永井貴金属及び石福金属からの仕入金額のうち、昭和五四年分及び同五五年分については、当事者間に争いがない。

また、乙第三一号証の一ないし四八、第三二号証の一ないし二七、第三三号証の一ないし一一七、第三四号証によれば、昭和五六年分の、原告の永井貴金属及び石福金属からの仕入金額は、一〇億四、七一三万五、〇七九円と認められる。

したがって、永井貴金属及び石福金属からの仕入金額は、被告の主張二2(三)(2)ロ<1>にいう別表乙1の1及び2の各「売上原価/金地金」欄の<1>、別表乙1の3の「売上原価/金地金」欄のとおりである。

(2) 永井貴金属及び石福金属に対する金地金の売上に対応する売上原価

前認定1(二)(2)の、昭和五四年分及び同五五年分の売上金額に、被告の主張二2(三)(2)ロ<1>B、同<2>Bにいう別表乙7の、昭和五四年分及び同五五年分の同業者の売上原価率をそれぞれ乗じて得られる売上原価は、別表乙1の1、2の各「売上原価/金地金」欄の<2>記載のとおりである。

(三)  以上によれば、本件係争各年分の原告の売上原価は、別表乙1の1ないし3の各「売上原価/合計」欄記載のとおりである。

3  一般経費

(一)  宝石貴金属製品の卸売に係る一般経費

右一般経費は、前示1(一)の、本件係争各年分の宝石貴金属製品の卸売に係る売上金額に、被告の主張二2(三)(2)ハ(イ)にいう別表乙6の当該各年分の同業者の一般経費率の平均値を乗じて算出される。その数額は、別表乙1の1ないし3の各「一般経費/宝石卸売」欄記載のとおりである。

(二)  金地金販売に係る一般経費

右一般経費は、前示1(二)(3)の、本件係争各年分の金地金販売に係る売上金額に、被告の主張二2(三)(2)ハ(ロ)にいう別表乙7の当該各年分の同業者の一般経費率を乗じて算出される。その数額は、別表乙1の1ないし3の各「一般経費/金地金」欄記載のとおりである。

(三)  松村からの手形割引料収入に係る一般経費

本件係争各年分の右一般経費の額は、当事者間に争いがない(別表乙1の1ないし3の各一般経費・手形割引欄記載のとおり)。

(四)  以上によれば、本件係争各年分の原告の一般経費は、別表乙1の1ないし3の各「一般経費/合計」欄記載のとおりである。

4  特別経費

本件係争各年分の原告の特別経費の額は、当事者間に争いがない(別表乙1の1ないし3の各「特別経費/合計」欄記載のとおり)。

5  事業専従者控除額

本件係争各年分の事業専従者控除額は、当事者間に争いがない(別表乙1の1ないし3の各「事業専従者控除」欄記載のとおり)。

6  事業所得金額

以上によれば、本件係争各年分の原告の事業所得の金額は、別表乙1の1ないし3の各「事業所得の金額」欄記載のとおりである。

六  不動産所得金額

本件係争各年分の原告の不動産所得金額は、当事者間に争いがない(別表乙1の1ないし3の各「不動産所得の金額」欄記載のとおり)。

七  総所得金額及び所得税額等

以上によれば、本件係争各年分の原告の事業所得金額と不動産所得金額とを合計して得られる総所得金額は、別表乙1の1ないし3の各3「総所得金額」欄記載のとおりである。

そして、右総所得金額に基づき計算される所得税額及び過少申告加算税額は、被告の主張二2(六)にいう別表乙1の1ないし3の各「所得税額」欄及び「過少申告加算税の額」欄記載のとおりとなる。

したがって、右数額の範囲内でなされた本件各処分は、いずれも適法な処分であって、これらに違法な点はなく、請求原因一2(二)は理由がない。

八  なお、原告は、その反論三2において、仕入れの実額を主張するので、この点につき検討する。

原告は、本件係争各年分の仕入れ実額を主張するのみで、各年分の売上金額を主張しない。そもそも、所得実額の反証をもって被告の推計を争うためには、売上げ及び経費の双方につき洩れのないその総額の実額を主張立証して、正確な洩れのない所得の実額を証明する必要がある。したがって、原告による仕入れ実額の主張は、その前提となる洩れのない売上総額を主張立証しない点ですでに失当であり、採用できない。

九  結論

以上のとおり、原告の本件各請求はいずれも理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 吉川義春 裁判官 中村隆次 裁判官 佐藤洋幸)

別表甲1

課税処分経緯表

<省略>

別表甲2

<省略>

別表乙1の1

原告の総所得金額及び所得税額等(昭和54年分)

<省略>

別表乙1の2

原告の総所得金額及び所得税額等(昭和和55年分)

<省略>

別表乙1の3

原告の総所得金額及び所得税額等(昭和和56年分)

<省略>

別表乙2

宝石貴金属製品の仕入金額

<省略>

<省略>

別表乙3

松村茂からの仕入金額明細(宝石貴金属製品)

<省略>

別表乙4

金地金の仕入金額

<省略>

別表乙5

金地金の売上金額

<省略>

別表乙6

同業者の売上原価率及び一般経費率(宝石貴金属製品卸売業)

<省略>

別表乙7

同業者の売上原価率及び一般経費率(金地金販売業)

<省略>

別表乙8の1

京信/河原町 割引手形明細

<省略>

別表乙8の2

京信/河原町 割引手形明細

<省略>

別表乙9の1

池田/京都 割引手形明細

<省略>

別表乙9の2

池田/京都 割引手形明細

<省略>

別表乙10の1

松村茂の依頼に係る手形割引による割引料収入等明細(昭和54年分)

<省略>

別表乙10の2

松村茂の依頼に係る手形割引による割引料収入等明細(昭和54年分)

<省略>

別表乙10の3

松村茂の依頼に係る手形割引による割引料収入等明細(昭和54年分)

<省略>

別表乙11

松村茂の依頼に係る手形割引による支払割引料等明細(昭和55年分)

<省略>

別表乙12

松村茂の依頼に係る手形割引による支払割引料等明細(昭和56年分)

<省略>

別表乙13

松村茂の依頼に係る手形割引による割引料収入等の計算

1 収入金額 (算式)

手形割引高(額面) ※2 収入割引料率

(1) 昭和54年分

(長田二郎分) 2,000,000円×9.26%=185,200円

※1

(2) 昭和55年分 29,121,793円×9.26%=2,696,678円

※2

(3) 昭和56年分 24,613,730円×9.26%=2,279,231円

2 一般経費(算式)

手形割引高(額面) ※3 手形割引料収入に係る一般経費率

(1) 昭和55年分 29,121,793円×0.007%=2,039円

(2) 昭和56年分 24,613,730円×0.007%=1,723円

(注)※1 手形割引高は別表乙11、12の松村茂の依頼による手形割引欄の合計額である。

※2 収入割引料率の計算は別表乙10の3の下段の計算による。

※3 一般経費率の計算は別表乙10の3の下段に計算による。

別表乙14

所得控除の明細

<省略>

別表乙15

所得金額のうち、隠ぺい又は仮装事由部分の額の計算書

<省略>

別表乙16の1

加算税額計算書(昭和54年分)

<省略>

別表乙16の2

加算税額計算書(昭和55年分)

<省略>

別表乙16の3

加算税額計算書(昭和56年分)

<省略>

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